クォーク・エクスペディションズ社 2018-19年 南極
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■コウテイペンギンの卵ペンギンは南極にすむと思われがちですが、実際に南極大陸におもな繁殖地を持つのはコウテイペンギンとアデリーペンギンの2種類だけです。アデリーペンギンは夏に地面が露出した海岸で繁殖しますが、コウテイペンギンは零下数十度の冬の氷原で繁殖を始ます。このためコウテイペンギンは「世界でもっとも過酷な子育てをする鳥」と呼ばれています。厳しい冬に子育てを始めるのも、ヒナの成長と餌の量に関連したものと考えられています。南極の秋にあたる3月から4月頃、群れは海を離れて繁殖地の氷原にやってきます。繁殖地は海岸から50~160kmほど離れた内陸部です。これほど海岸から離れる理由の一つは捕食者から逃れるため、また雛が成長する前に氷原が溶けてしまうからであると考えられています。求愛行動それに続く交尾の後、5月から6月にかけてメスは長径12cm、重さ450g程度の卵を1個だけ産みます。産卵により疲労しているメスは餌を求めて海へ向かいます。繁殖地に残ったオスは卵を足の上に乗せ、抱卵嚢(ほうらんのう)と呼ばれる両肢の間のお腹のだぶついた皮を使って、抱卵を始めます。抱卵は立ったままで行うため巣はありません。■コウテイペンギンのヒナオスはブリザード(地吹雪)が吹き荒れて-60℃になる極寒の冬の氷原上で身を寄せ合い抱卵を続けます、卵は約65日で孵化しますが、抱卵中のオスは雪を食べるしかない絶食状態になります。エネルギー消費量を抑えるため睡眠に近い状態で過ごすものの、孵化する頃にはオスの体重は40%以上も減少してしまいます。繁殖地へ移動した頃から数えると約120日間も絶食していることになります。8月頃にはヒナが生まれますが、メスがまだ海から戻ってきていない場合には、オスは食道から分泌した白色の乳状の物質(ペンギンミルクと呼ばれることがあります)を餌としてヒナに与えます。メスが海から戻ってくると、ヒナの給餌はメスが行い、オスはやっと海に出て行けることになりますが、遠い海までの道のりで力尽き死んでしまうオスもいます。オスだけが抱卵するのはコウテイペンギン特有で、他の種類のペンギンはオスとメスが交代で抱卵します。海から戻ってきたメスはヒナのための食物(オキアミなど)を胃に貯蔵しており、食物を吐き出してヒナに餌として与えます。ヒナは最初羽毛も生えていませんが、やがて黒と灰色の綿毛が生えます。海へ行ったオスは、やはり同様に食物を胃に貯蔵して、数週間後に繁殖地へ戻ってきます。以後、オスとメスが交代でヒナの番と餌運びを行います。ただ、戻ってきてもヒナがなくなっていたりしていると、メスは他のヒナを奪って育てようとします。ヒナが成長するにつれ、摂取する餌の量が増え、オスとメスの両方とも海に出るようになります。この頃になると、ヒナばかりが集まって「クレイシ」(フランス語でクレーシュCreche、保育所の意味)という集団を作ります。クレイシは子育てを行っていない若鳥などに守られながら徐々に海岸へと移動します。■海への旅立ちヒナが充分に成長する頃にはクレイシも海岸に到達し、南極も夏を迎えます。ヒナが成鳥の羽に換羽するのと同時期に、成鳥も冬羽から夏羽に換羽します。換羽の間は海に入らず、絶食することとなります。換羽の終わった群れは餌の豊富な夏の南極海へと旅立っていきます。コウテイペンギンペンギン目最大種で、体長は100~130cm、体重は20~45kgに達します。潜水能力は鳥類最高で、水深500m以上の深さに20分以上潜るとも言われています。他のペンギンと同様に肉食性で、魚類、イカ、オキアミなどを捕食します。おもな天敵はシャチやヒョウアザラシです。11

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