クォーク社 2021年 南極での皆既日食
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り始め、皆既の瞬間に向けての緊張が高まってきます。そして、1分前の頃には運が良ければシャドーバンドと呼ばれる淡い濃淡模様があたり一面の地面を走る様子が見えるかも知れません。皆既が始まる10秒ぐらい前になると、まぶしい太陽の光がいよいよ小さくなって日食グラスを外すと黒い太陽の周りにコロナが見え始め、月の谷間から漏れた太陽の光がキラキラ輝いて見えるようになります。これが第2接触のダイヤモンドリングと呼ばれる現象です。ただ、日食グラスを外すタイミングが早すぎると、まだ大きいまぶしい太陽の光ためにしばらく目がくらんで、皆既になった時にコロナが見えにくくなるので、ダイヤモンドリングを裸眼で見始めるのは皆既の2~3秒前からにする方がいいです。皆既が始まると、周りの光景は一変します。白昼なのに突然闇の世界が訪れ、空は深い青色の暗い空になり、地平線付近が360度夕焼けのようになり、高度15度ぐらいの空に黒い太陽とそれを取り巻くコロナの光芒が輝いて見えるようになります。双眼鏡でコロナを眺めると、図4のようなコロナの美しい構造と黒い太陽の縁から吹き上がって見える赤いプロミネンスがくっきり見えます。コロナの流線の形は、日食のたびに大きく変わるので、どのように見えるかじっくり確認してください。プロミネンスは9皆既日食は、空全体に繰り広げられる現象なので、望遠鏡を使わなくても十分に楽しめます。南極での皆既日食観察の際に最低限準備した方がいいものは、防寒着と日食グラスと双眼鏡などです。日食グラスは太陽が欠けていく様子を見るとき、まぶしい太陽の光を10万分の1程度まで減光して眼を傷めないようにするものですが、皆既中だけはまぶしい太陽の光は完全に隠されるので日食グラスは外して眺めることができます。双眼鏡は、コロナの流線構造を見るために、ぜひ用意ご用意ください。コロナは肉眼で見ても十分感動的な美しさですが、コロナの繊細な模様や黒い太陽の縁から吹き上がる赤いプロミネンスなどは、双眼鏡を使うと何倍も迫力が増します。双眼鏡は手で持って使うには7倍ぐらいのものが使いやすいですが、もっと大きく眺めたい方は10~15倍のものがいいでしょう。ぶれないように三脚に載せるか防振型双眼鏡を準備するなどの工夫が必要です。かけ始めから皆既が始まる5分ぐらい前までは、周りの景色に大きな変化はないので、日食グラスを使って太陽が欠けていく様子を時々眺めればいいでしょう。5分ぐらい前になって太陽が鎌のように細くなってくると、周りの明るさが急速に暗くな紅炎とも呼ばれ、太陽の縁から吹き上がった赤い炎のようなもので、その形は常に変化しています。日食当日に大きなものが出ていることを期待したいものです。皆既の終わりが近付くころに再度空全体を眺めると、夕焼けの明るさ分布が変化しているのが分かります。そして、双眼鏡で太陽を眺めると、皆既が終わる20~30秒ぐらい前から黒い太陽の縁に赤くて薄い層(彩層)が見え始めます。彩層がだんだんと明るくなってきたと感じるうちに、突然月の谷間から太陽の光が漏れ始め、その光が大きくなりつつ両側に広がっていきます。これが第3接触のダイヤモンドリングです。第3接触のダイヤモンドリングは、眼が暗闇になれた状態で眺めることになるので非常に美しく、見とれてしまうと思います。ただ、太陽の光はどんどん明るくなっていくので、まぶしすぎると感じたら危険信号ですから、すぐ日食グラスを通してみるスタイルに切り替えてください。第3接触の1分後ぐらいには、またシャドーバンドが見えることがあるので注意してください。そのあとは、太陽はだんだんと欠けている部分が少なくなって、1時間後ぐらいに丸い姿に戻るわけですが、皆既中とその直前直後のようなダイナミックな変化はないので、乾杯をしながら仲間と感動を語り合うなど余韻を楽しむといいでしょう。南極日食ならではの注意点は、厳しい自然環境、特に寒さへの対策だと思います。長時間寒い屋外にいても大丈夫なように暖かく過ごす工夫をしたり、素手で金属を触って凍傷にならないようにする工夫などが必要です。また、低温によるバッテリーの劣化対策が重要です。日食当日の気温にもよりますが、低温ではカメラの電池の持ちが悪くなるので、肝心の皆既の瞬間にバッテリー切れになってシャッターが切れなかったという事態にならないよう対策してください。皆既日食観測に必要なもの皆既日食の観察方法皆既10分前から10分後までの見え方変化を並べた写真コロナの細部構造の説明図(2006リビア皆既日食)図4Photo by Fred Espenak

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