旅行者が病気やその他外来生物を南極に持ち込んだり、伝染させたという決定的な証拠はこれまでにないものの、間接的且つ状況的な証拠に関心が集まってきている。さらに、旅行者が媒介となって、南極の生態系内部に病害をもたらす可能性があるとみられている。

南極旅行業界は約10年前からこれらを認識しており、自主的な取り組みとして、外来生物の南極への移入に取り組むための手順を導入し始めた。さらにIAATOは、効果的な対策をとるための調査も実施した。これらの取組みの結果、このガイドラインが開発されている。

このガイドラインは、各国が外来生物や外部からの病気の侵入を防ぐための除染方法、及び2001年からIAATOに所属する全てのメンバー国の船舶に義務付けられた除染方法と同様のものである。このガイドラインは、新しい情報が適用となるたびに、定期的な見直しと更新が行われている。

 

靴、衣服、装備の除染に関するガイドライン

 

1.出航前の情報

訪問者は、南極は孤立した大陸であること、広範囲に病気や外来生物が侵入していない地域であることについて、教育を十分に受けること。訪問者が決してこの事を忘れないようにしなければならない。

●訪問者が、全ての靴と衣服を乗船前に清潔にするよう、再度指示すること。トレッキングや森林ハイキング、登山旅行または農場訪問に行った者は、航海に先立ち、必ず靴、衣服、装備品を清潔にし、外来の有機物を全て除去しなければならない。三脚の足の部分やバックパックは泥と種が付着するため、常に確認すること。マジックテープの接着部分は、種子が付着しやすいため徹底的に確認し、南極に出発する前には清潔にしておくこと。

 

2.上陸前の説明

●訪問者が海岸に向かう前に、靴、衣服、装備品を清潔にするよう、再度指示すること。靴の洗浄ステーション(Boot-washing station)として知られる設備はデッキにあり、装備品を清潔にするために使用する。また、装備品は、上陸に先立ち、船の乗務員や船員が徹底的に確認することが望ましい。

 

3.靴の洗浄ステーション

●デッキ上にある施設で、タラップの先頭部分又は乗客が船に乗り込む場所近辺に設置され、以下が要求される。

 

  • 水道水とホース・・・高圧で確実にごみを取り除けるものが望ましい。
  • 排水設備
  • 靴と衣服からごみをこすり落とすためのたわしと、硬いマット、そして浅いトレイ
  • VirkonS1のような消毒薬の入った二つ目のトレイ
  • 乗客の靴と衣服が完全に除染されたかどうかの点検を手伝うスタッフか乗員

●上陸前後に、海岸に向かう乗客全てが靴洗浄ステーションを通過し、靴から確実にごみが取り除かれ、殺菌されていること。

●船員は乗客とはとは違うルートで上陸し、彼らもまた完璧に除染の工程を行うこと。

 

4.上陸

 

●可能であれば、グアノ(海鳥の糞)や、アザラシの胎盤、アザラシの排泄物などの有機物がある場所は、避けて歩くこと。これらの有機物を上陸地点周辺に移動させないためである。

●船に戻る際には、小型船に乗船する前に、ごみ(特にグアノのような有機物)を靴と衣服からできる限り洗い流すようにすること。上陸活動の後、ゾディアック船(またはその他の小型船)に乗り込む前に、簡単なブラシで靴を綺麗にすること。地面に着地したもの(特にバックパック)はなんであれ、靴のカフス部分やマジックテープの露出した部分はよく調べ、上陸地点を離れる前に確実に清潔にする。亜南極圏の種子やその他の植物は、乗客が常に注意していなければ、容易に輸送されてしまう。

●種子を輸送しない対策として、衣服のポケットを裏返しにして、適切な場所でスタッフに掃除機で吸ってもらう。

●船に戻るときは、靴と衣服を完全に綺麗にし、靴の洗浄ステーションで消毒する。消毒液は洗い流すのではなく、船上で乾燥させること。

●それぞれの上陸の終了時には、小型船をよく点検し、掃除が必要な場合には確実に外来有機物がないようにし、地域間で輸送されないようにする。

 

5.上陸と次の上陸までの間

●上陸と次の上陸までの間に、靴と衣服を完璧に乾燥するようにしておく(乾燥は、いくつかの微生物をコントロールする上で重要である)。乗客は、次の上陸前の説明の後に、靴と衣服を点検し、外来の有機物の付着がない状態にすることを忘れずに行う。

 

注1:IAATO発行の「南極地域の野生生物への病気の導入と検出(introduction and Detection of Diseases in Antarctic Wildlife)」及び訪問者の靴洗浄に適した消毒薬に関する論文によると、靴の洗浄ステーションでは、VirkonSでの消毒が推奨されている。データによると、消毒薬VirkonSは最も効果的であるとされている。

VirkonSについては、慎重に取り扱うことが極めて重要で、使用方法を適切に守らなければならない。