皆既日食は、空全体に繰り広げられる現象なので、望遠鏡を使わなくても十分に楽しめます。今回の南極日食に行く人が最低限準備した方がいいものは、防寒着と日食グラスと双眼鏡などです。日食グラスは太陽が欠けていく様子を見るとき、まぶしい太陽の光を10万分の1程度まで減光して眼を傷めないようにするものですが、皆既中だけはまぶしい太陽の光は完全に隠されるので日食グラスは外して眺めることができます。双眼鏡は、コロナの流線構造を見るために、ぜひ用意したいアイテムです。コロナは肉眼で見ても十分感動的な美しさですが、コロナの繊細な模様や黒い太陽の縁から吹き上がる赤いプロミネンスなどは、双眼鏡を使うと何倍も迫力がアップします。双眼鏡は手で持って使うには7倍ぐらいのものが使いやすいですが、もっと大きく眺めたい方は10~15倍のものがいいのですが、ぶれないように三脚に載せるか防振型双眼鏡を準備するなどの工夫が必要です。

 

図7 皆既10分前から10分後までの見え方変化を並べた写真(2006 リビア皆既日食)

 次に、日食の進行に伴って、どのような現象に注目すべきかを解説します。まず、かけ始めから皆既が始まる5分ぐらい前までは、周りの景色に大きな変化はないので、日食グラスを使って太陽が欠けていく様子を時々眺めればいいでしょう。そして5分ぐらい前になって太陽が鎌のように細くなってくると、周りの明るさが急速に暗くなり始め、皆既の瞬間に向けての緊張が高まってきます。そして、1分前の頃には運が良ければシャドーバンドと呼ばれる淡い濃淡模様があたり一面の地面を走る様子が見えるかもしれません(経験者の方がいたら、きっと地面に注目するよう叫んでくれると思います。)。そして、皆既が始まる10秒ぐらい前になると、まぶしい太陽の光がいよいよ小さくなって日食グラスを外すと黒い太陽の周りにコロナが見え始め、月の谷間から漏れた太陽の光がキラキラ輝いて見えるようになります。これが第2接触のダイヤモンドリングと呼ばれる現象です。ただ、日食グラスを外すタイミングが早すぎると、まだ大きいまぶしい太陽の光のためにしばらく目がくらんで、皆既になった時にコロナが見えにくくなるので、ダイヤモンドリングを裸眼で見始めるのは皆既の2~3秒前からにする方がいいです(多分、皆既まであと何秒というカウントダウンがアナウンスされると思うので、それを聞きながら行動してください)。

 皆既が始まると、周りの光景は一変します。白昼なのに突然闇の世界が訪れ、空は深い青色の暗い空になり、地平線付近が360度夕焼けのようになり、高度15度ぐらいの空に黒い太陽とそれを取り巻くコロナの光芒が輝いて見えるようになります。明るい星も見えるようになり、図8のように太陽のすぐ右側(約3度)には-1.0等級の水星、40度ぐらい右側には-4.7等級の金星が輝いています。そのような空全体の様子を確認したら、次はコロナを双眼鏡で眺めてください。

図8 皆既中の空の様子のシミュレーション画像 (ステラナビゲータで作図)

 双眼鏡でコロナを眺めると、図9のようなコロナの美しい構造と黒い太陽の縁から吹き上がって見える赤いプロミネンスがくっきり見えます。コロナの流線の形は、日食のたびに大きく変わるので、どのように見えるかじっくり確認してください。プロミネンスは紅炎とも呼ばれ、太陽の縁から吹き上がった赤い炎のようなもので、その形は常に変化しています。日食当日に大きなものが出ていることを期待したいものです。

 

図9 コロナの細部構造の説明図

 皆既の終わりが近づくころに再度空全体を眺めると、夕焼けの明るさ分布が変化しているのが分かります。そして、双眼鏡で太陽を眺めると、皆既が終わる20~30秒ぐらい前から黒い太陽の縁に赤くて薄い層(彩層)が見え始めます。そして彩層がだんだんと明るくなってきたと感じるうちに、突然月の谷間から太陽の光が漏れ始め、その光が大きくなりつつ両側に広がっていきます。これが第3接触のダイヤモンドリングです。第3接触のダイヤモンドリングは、眼が暗闇になれた状態で眺めることになるので非常に美しく、見とれてしまうと思います。ただ、太陽の光はどんどん明るくなっていくので、まぶしすぎると感じたら危険信号ですから、すぐ日食グラスを通してみるスタイルに切り替えてください。

 

図10 2006リビア皆既日食の第3接触のダイヤモンドリング(約1秒ごとの変化)

 第3接触の1分後ぐらいには、またシャドーバンドが見えることがあるので注意してください。そのあとは、太陽はだんだんと欠けている部分が少なくなって、1時間後ぐらいに丸い姿に戻るわけですが、皆既中とその直前直後のようなダイナミックな変化はないので、乾杯をしながら仲間と感動を語り合うなど余韻を楽しむといいでしょう。

 以上は日食一般についての見どころや注意点ですが、南極日食ならではの注意点は、厳しい自然環境・特に寒さへの対策だと思います。長時間寒い屋外にいても大丈夫なように暖かく過ごす工夫をしたり、素手で金属を触って凍傷にならないようにする工夫などが必要です。

 

2006年ダイヤモンドリング

 

2012年ダイヤモンドリング

 

文責:日食画像研究会(SEPnet)前代表 塩田 和生

 

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