図1は、今回の皆既日食が見られる地域を示した図です。青色の枠の細長い範囲が、太陽の光が完全隠される場所、つまり月の本影が通過する皆既地帯です。皆既地帯は、南大西洋のフォークランド島とサウスジョージア島の中間の海上で地球に接しはじめ、サウスオークニー諸島を通ってウェッデル海を南下し、ロンネ棚氷を経て南極大陸に進み、ユニオン・グレーシャー・ベースキャンプを通って西進し、アムンゼン海に出て地球から離れます。つまり、皆既日食の壮大な光景を眺めるには、2021年12月4日にこの幅400km強の皆既帯のどこかの地点に入っている必要があるわけです。

図1 2021.12.4の南極日食の皆既帯 ※この皆既帯はイメージです

※この皆既帯はイメージです
しかし、アクセスが容易でない南極周辺で、一般の人たちが訪問でき皆既日食が見られる場所は限られ、サウスオークニー諸島付近の海上と南極大陸のユニオン・グレーシャー・ベースキャンプの周辺くらいです。では、これらの場所では、日食がどのように見えるかを説明します。
まず、サウスオークニー諸島付近の皆既帯の中心では、日食は図2のように進行します。太陽は世界時で6時19分ごろかけ始め、7時7分ごろ太陽が完全に隠されコロナが見え始め、7時09分ごろ月の背後から太陽の光が再び姿を現して皆既が終わり、8時00分ごろ太陽の前から月が去って丸い太陽に戻ります。月が完全に太陽を覆っている時間(皆既継続時間)は約1分42秒で、太陽高度は約10度です。

図2 サウスオークニー諸島沖の皆既中心線上での日食経過図(ステラナビゲータで作図)
一方、ユニオン・グレーシャー・ベースキャンプでは、日食は図3のように進行します。太陽は世界時で6時54分ごろかけ始め、7時45分ごろ太陽が完全に隠されコロナが見え始め、7時46分ごろ月の背後から太陽の光が再び姿を現して皆既が終わり、8時37分ごろ太陽の前から月が去って丸い太陽に戻ります。月が完全に太陽を覆っている時間(皆既継続時間)は約0分47秒で、太陽高度は約14度です。ユニオン・グレーシャー・ベースキャンプは皆既帯の幅の端に近いので、皆既継続時間が短めですが、もし中心線に近づくことができれば皆既継続時間はもう少し長くなります。(最寄りの中心線まで行けば、1分51秒です)

図3 ユニオン・グレーシャー・ベースキャンプでの日食経過図(ステラナビゲータで作図)
ロンネ棚氷の先端付近のコウテイペンギン営巣地(ユニオン・グレーシャー・ベースキャンプから飛行機でいける)では、日食は図4のように進行します。太陽は世界時で6時42分ごろかけ始め、7時34分ごろ太陽が完全に隠されコロナが見え始め、7時36分ごろ月の背後から太陽の光が再び姿を現して皆既が終わり、8時29分ごろ太陽の前から月が去って丸い太陽に戻ります。月が完全に太陽を覆っている時間(皆既継続時間)は約1分43秒で、太陽高度は約18度です。

図4 ロンネ棚氷のコウテイペンギン営巣地での日食経過図(ステラナビゲータで作図)
皆既時の太陽高度は、どの地点でも10度~18度と低いですが、空気が澄んでいる南極では雲に遮られなければコロナを鮮明に見るには十分な高度です。太陽高度が低いことは、双眼鏡などでコロナを眺める際に姿勢が楽になるとか、地上の景色と一緒にコロナを撮影する際には構図を決めやすくするなどのメリットもあります。
皆既日食を眺める上では、皆既継続時間(どれだけの間コロナが見られるかという時間)のような天文学的な条件も重要ですが、空が雲で覆われているとコロナは見えなくなるので、雲のない場所に行くことの方が重要になります。ただ天気はその時の運次第という面も大きいので、海上で船から眺める場合などは過去の統計データを参考に大まかな場所選びをしたうえで、当日の気象情報をもとに晴れ間を狙って移動することになります。では、過去の雲の統計はどうかというと、Jay Anderson さんというカナダの気象学者の先生が図5のようなデータを公開されています。図5を見ると、ウェッデル海の平均雲量は約90%、ユニオン・グレーシャー・ベースキャンプ付近の平均雲量は約50%となっています。平均雲量が90%ではほとんど晴れないのではないかと心配になりますが、気象衛星画像を詳しく調査されたJay Anderson さんは「日々の衛星画像はもう少し楽観的です。日食トラックの下には空が開いているかまたはほぼ雲がない広い領域が時々現れることがあり、十分な機動性と時間があれば、船で到達することが可能です。難しい部分は、船が適切な場所に到着できるように、それらを十分に早く認識することです。」というコメントを書いておられます。滅多にないチャンスですから、運を信じて挑戦してみる価値はあると思います。

図5 皆既帯付近の12月の平均雲量分布図
出展:http://eclipsophile.com/2021tse/
Figure 1: Average cloud fraction in December extracted from Terra satellite observations
Jay Anderson and Jennifer West さんのホームページ
Eclips phile crimate and weather for celestial eventsから画像を引用しています。
文責:日食画像研究会(SEPnet)前代表 塩田 和生
※11月25日発オーシャン・ダイヤモンドには、「日本語同時通訳」と「日本の天文講師」が乗船予定です。