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南極クルーズ・北極クルーズの手引き

ウェッデル海

ウェッデル海(Weddell Sea)
南極半島と大陸部分のコーツランドに挟まれて、南極大陸の中に深く食い込んだ湾、ウェッデル海はイギリス人のアザラシ猟師で探検家でもあったジェイムズ・ウェッデルによって1822年に発見されました。その年は氷の状態が例年に無く好条件だったので、ウェッデルは遥か南緯74°15’までの航行に成功したのです。通常、ウェッデル海の航行は非常に困難です。それは大量の海氷だけでなくラーセン棚氷、ロンネ棚氷そしてフィルヒナー棚氷から分離した巨大な氷山があるためです。氷山製造工場といっても過言ではありません。砕氷船ですらウェッデル海の西部や南部の航行には困難が強いられます。それでもこの海域を訪れる価値は歴史関係の物を始めとして充分にあります。その中でも有名なのはスウェーデン人、ノルデンショルドの探険隊の舞台となった事で、その探険小屋はスノーヒル島に現存しています。同島海岸では現在より温暖だった時代のカタツムリ、大型二枚貝、螺旋状のアンモナイトなどの化石をあちこちに見る事が出来ます。探検小屋は、アルゼンチンの南極局が修復しました。

この海域は、またシャクルトン隊で有名な話の舞台です。ここが1915年に氷に閉じ込められてしまった探険船エンデュアランス号を断念した場所なのです。シャクルトンはその航海日誌で、「足元の甲板がミシミシと音を立てて壊れ、大梁がたわんで大砲のような大きな音を立ててボキボキ折れるのを聞くと胸が悪くなった。」と書いています。

現在、ウェッデル海を訪れる最大の目的の一つは氷山見物の他、南極随一の海鳥、コウテイペンギンの観察です。従来はロス海の周辺海域だけで繁殖する事で知られていたこの大型ペンギンは、冬季に定着氷の上で繁殖を始めます。1986年にはウェッデル海で数箇所のコロニーが発見され、その一つは南緯72°09’、 西経15°07’のラーセン棚氷、もう一つはドイツのノイマイヤー基地近くのアトカ湾からそれほど遠くない場所にありました。コロニーはどちらも氷に阻まれ接近するのが難しいため、通常は砕氷船に搭載しているヘリコプターで接近します。時にはウェッデル海の流氷上でもコウテイペンギンを見かける事もあります。ウェッデル海はアザラシの生息地としても有名で、ジェイムズ・ウェッデルにちなんで命名されたウェッデルアザラシを見る事も出来ます。常におびただしい海鳥の群れが見られるのもこの海域の魅力でしょう。

◆エクスペディション・リーダーの航海日誌から
スノーヒル島コウテイペンギンの営巣地発見:歴史的に知られているのはシャクルトンとノルデンショルドの記述の中で、彼らはウェッデル海の西側海域でコウテイペンギンの群れを発見したと報告している。

ウェッデル海に乗り入れるエクスペディション・チームとして我々は常に新しい営巣地の発見に務めて来た。2000年には南極調査中の科学者がスノーヒル島の上空を探索中に島の南側でコウテイペンギンの営巣地1ヶ所を発見した。彼らは営巣地の頭上を旋回して空中からの観察を行い、調査報告書を発表している。

我々エクスペデション・スタッフは全員、ヘリコプター搭載の砕氷船でこの海域を訪れ気象条件や時期があえば島に上陸して、最初にスノーヒル島の営巣地の場所を特定した人々として記録に残るのを長年夢見てきた。

北風が吹き荒れる2004年の夏、自分はエクペディション・リーダーとして砕氷船に乗り北極海を航行していた。そこで次に自分と共に南極を航海する予定の船長にスノーヒル島の営巣地の調査報告書を手渡した。

今まで誰も徒歩で営巣地を訪れた人間はいないこと、その為、正確にはどれだけの数のペンギンが繁殖しているかの調査がまだなされていない事の説明を添えて。この船長はそれまで数年に亘って南極海を航行した経験があり、その発見がいかに貴重なものかを理解していた。

その年の11月、自分は再びエクスペディション・リーダーとして船長が操舵する砕氷船に乗りこんだ。「船長、今回のクルーズで我々の最大の目的は、スノーヒル島のコウテイペンギン営巣地の発見なのです。」 船長は我々の夢に答えるべくやる気まんまんの様子だった。ドレーク海峡を航行している最中に、我々は乗客全員に今回のクルーズの特別な目的地を伝えた。南極半島の探険クルーズには、通常コウテイペンギンの営巣地の訪問は含まれていない。その為、もしこれが実現すれば我々のクルーズは歴史に残る快挙を果たす事になるだろうと。乗客たちは全員興奮して歓声をあげた。

そして我々はウェッデル海に分け入った。船長と自分はそこに約50㎞も亘る開氷地域を発見して幸運に感謝した。スノーヒル島に近づくにつれて定着氷を見て更に喜びが増した。その定着氷の先端は営巣地発見の報告書にあった位置から大体40㎞の場所にあたっていた。ヘリコプターは既にローターを旋回させて我々を待っていた。まもなく乗客全員に待ちに待った上陸をアナウンスするのだ。船長が砕氷船を氷上にのりあげて安定させるのを待っている間、偵察用のヘリコプターが飛び立った。

偵察ヘリは定着氷の上空とスノーヒル島の上空を飛び、反対側にある海氷の上に着氷した。コウテイペンギンの営巣地は容易に発見できないものだ。一般人はペンギンの背中はあんなに真っ黒いのだから純白の氷の上では目だってすぐに見つかるはずだと思いがちだ。それは間違いだ。太陽光線に対して丁度良い角度にならないと、彼らの背中や影を見つけるのは難しいのだ。

我々は目的地の上空を行ったり来たりしながら徐々に旋回の輪を広げていき、営巣地の場所を見つけようと必死になった。そして、ついにそれはあった! 以前に報告された場所より3kmも離れた場所にあったのだ。船に戻った我々は、乗客全員に「行ける」と伝えた。気象条件は申し分の無い程素晴らしい。ヘリコプターの偵察には長い時間がかかったが、世紀の大発見は目の前だ!と。

その時点で上陸安全確認チームが船に戻り、船からタラップが下ろされた。乗客は全員海の氷の上に降り立ち、その横を興味津々といった表情のコウテイペンギンが通り過ぎてゆく。ウェッデルアザラシたちも氷の裂け目や氷山の上にのんびりとねそべって乗客たちを観察していた。一旦、乗客全員を船に招集してブリーフィングを開始し、それから8時間かけて南極の皇帝君主たちと並んで歩く機会が乗客全員に与えられたのだ。

(南極旅行&南極クルーズ2-5)